てって
「手手」 沖縄の読谷村で発行されているリトルプレス。
「“手”をめぐる四百字」(季刊「銀花」編集部) 各分野の第一人者50人による手をめぐる400字のエッセー。肉筆で載せてあるところがニクイ。 著者:白洲 正子
美しい手とは働く手だ。だから、美しい手にはシワが多く、指も太い。私がそれに気づいたのは40代になってからのことで、それまでは子どもでバカだったので、マニュキアを塗っていない手を醜いと感じ、手がガサガサのおばちゃんを見ると、「あんな女にはなりたくない」と思っていた。
いや、お手入れは大切ですよ。でも、マニュキアでキラキラした手を見ても、べつに美しいとは思わなくなった。
私が好きなピアニストフジ子・ヘミングの手は、ビックリするほど小さくて指も短く、農家のおばあちゃんみたいにシワシワだ。でもその手から生み出される音楽は、「音楽を奏でるとはこのことか」と目からウロコが落ちるほど心を揺さぶられる。
料理人の手もそう。物を創り出す人の手は、みんな労働者の手だ。
だから、今時の過剰にきれいに整えられた長い爪などを見ると、「その手で何をするの?」と思ってしまう。ま、携帯を打つくらいで何にもしてないんだろうけど。
しかしそうはいっても、あまりにほったらかしの手や爪も、やはり女としては考え物。
特に爪。私が美しいと思うのは、ヤスリなんかで手入れをされた清潔な爪だけど、ただ塗ればいいマニュキアと違い、これには日常的な努力と美意識の高さが必要だろうから、やっている人は本当にステキだと思う。化粧が上手な人よりも素肌が美しい人の方が、賞賛に値するのと同じで。
手は、動いている時が一番美しい。無駄なく動いている手を見ていると、気持ちがいい。生きた手。表情のある手。白魚のような手になりたければ動かさないことらしいが、シワ防止のために笑わない人みたいで、哀れよね。
男の手だと、爪の間に土や油が染み込んでしまったような手がいいな。長い間一生懸命に仕事をしてきた手。シャーロック・ホームズは、依頼人の手を見ただけで職業を当てていた。キーボードばかりを打ってきた手は、一体どんな手になるのだろう。
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“手”をめぐる四百字―文字は人なり、手は人生なり
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